column

相続した収益物件を売ると税金はいくら?|減価償却の影響と手取りシミュレーション

相続した賃貸マンションやアパートを売る際に、「税金がざっくりいくらになるか、まず概算だけでも出したい」と思ったとき、最初に壁にぶつかるのが取得費の計算です。

収益物件は毎年の確定申告で減価償却費を計上してきているため、税務上の取得費が購入当初よりかなり下がっています。

親から引き継いだ物件なら、被相続人がすでに計上した累積の減価償却額が、そのまま取得費を削り続けています。

この数字を知らないまま「昔の購入価格で計算した」場合、実際の税額が想定より何百万円も多く出ることがあります。

この記事では、相続した収益物件の売却税金を計算する手順を、減価償却の実数計算・2ケースのシミュレーション・手取り額の目安まで整理します。

概算の金額感をつかんだうえで、税理士への相談や売却判断の入口としてご活用ください。

この記事でわかること
  • 相続した収益物件の売却税金の計算式と5つの計算手順
  • 減価償却で取得費がいくら圧縮されるか:木造・RC別の計算例
  • 特例なし・取得費加算特例ありの2ケースで変わる税額と手取り額の目安
  • 自分のケースで計算するための3つの分岐確認(税率・特例・売り時)

収益物件の売却でかかる税金:計算式と全体の流れ

不動産を売って得た利益(=譲渡所得)には、他の所得と分けて計算する「分離課税」として税金がかかります。

利益とは売却価格そのものではなく、取得費や譲渡費用を差し引いた後の金額です。

この記事では計算の手順を中心に解説します。

譲渡所得の制度全体・税金の種類(印紙税・登録免許税等)の詳細については、下記の記事をご参照ください。

あわせて読みたい
相続した不動産を売るときの税金はいくら?賃貸・収益物件は節税が限られる理由と対策

相続した収益物件・事業用不動産を売却すると、譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、不動産を売って得た利益(譲渡所得)にかかる所得税のことです。 税率の目安は利益の約20%(長期保有の場合)ですが、節税できる制度は居住用不動産と大きく異なります。 空き家特例もマイホーム特例も、生前に賃貸に出して

相続した収益物件を売却する際の税金の種類・特例の条件・申告の流れを網羅的に解説しています。

基本的な計算式は次のとおりです。

収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)= 課税譲渡所得 課税譲渡所得 × 税率 = 税額

計算は、以下の5ステップで進みます。

  • 売却価格(収入金額)の確認:売買契約書の売却金額
  • 取得費の確認:土地の取得費 + 建物の帳簿価額
  • 譲渡費用の集計:仲介手数料・売主負担の印紙税・立退料等
  • 課税譲渡所得の計算:収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)
  • 税額の計算:課税譲渡所得 × 税率

税率は所有期間によって変わります。

区分 所有期間 所得税 復興特別所得税 住民税 合計税率
長期譲渡所得 5年超 15% 0.315% 5% 20.315%
短期譲渡所得 5年以下 30% 0.63% 9% 39.63%

長期と短期では合計税率が約2倍違います。

所有期間は「譲渡した年の1月1日時点」で判定します。相続した物件の起算日は「被相続人が物件を取得した日」のため、長年保有していた収益物件なら相続後すぐに売っても長期になるケースが多いです。

取得費の中でも特に確認が必要なのが、建物の帳簿価額です。

減価償却で取得費が削られる仕組みと、構造別の実計算

取得費を正確に把握するには、2つのポイントを押さえる必要があります。相続で引き継ぐ累積額の考え方と、構造ごとに異なる減価の速度です。

相続物件に引き継がれる減価償却累積額の考え方

ここでは相続物件に特有の「引き継ぎ累積額」の考え方に絞って説明します。

相続した物件の場合、被相続人がすでに計上してきた減価償却の累積額を引き継ぎます。

今の建物の税務上の取得費は、元の取得費から累積の減価償却額を差し引いた金額(帳簿価額)になります。

建物の税務上の取得費 = 取得費 − 減価償却累積額(帳簿価額)

土地部分は減価償却されません。土地の取得費はそのまま認められます。

ひとつ注意したい点があります。

賃貸経営中に確定申告で減価償却費を計上していなかった年があっても、「計上すべき額」の合計は差し引かれます。

申告漏れがあっても取得費は増えないので、実際の申告内容にかかわらず確認が必要です。

木造は20年で取得費の8割以上が削られる:RC造と比べてどれだけ差があるか

「減価償却で取得費が下がる」と言っても、どのくらい下がるのか。

構造によって速度がかなり違います。

定額法による減価償却の計算式は、取得年によって2種類あります。

  • 旧定額法(2007年3月以前取得):取得費 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
  • 新定額法(2007年4月以降取得):取得費 × 償却率 × 経過年数

主な構造の償却率は次のとおりです。

構造 用途 耐用年数 定額法償却率
木造 住宅用 22年 0.046
RC造 住宅用 47年 0.022
計算例①:木造アパート(建物取得費2,000万円・築20年)

旧定額法で計算すると、

  • 減価償却累積額:2,000万円 × 0.9 × 0.046 × 20年 = 1,656万円
  • 帳簿上の建物取得費:2,000万円 − 1,656万円 = 344万円
  • 土地1,000万円を加えると総取得費(目安)= 1,344万円

建物取得費2,000万円のうち、税務上残るのは344万円です。

元の価格の17%ほどしか取得費として使えません。

計算例②:1棟RCマンション(建物取得費3,000万円・築15年)

旧定額法で計算すると、

  • 減価償却累積額:3,000万円 × 0.9 × 0.022 × 15年 = 891万円
  • 帳簿上の建物取得費:3,000万円 − 891万円 = 2,109万円
  • 土地2,000万円を加えると総取得費(目安)= 4,109万

RC造は木造に比べて耐用年数が長く、減価の速度はゆるやかです。

それでも15年で891万円が削られています。

木造とRC造を比べると、同じ年数でも減価の速さがかなり違います。

木造の場合、20年後には建物取得費の8割以上が償却済みです。

「昔の購入代金そのままで計算した」場合、税額を数百万円単位で見誤ることになります。

上記の計算例はあくまで目安です。

実際の帳簿価額は被相続人の確定申告書か税理士に確認してください。

相続した物件の帳簿価額を調べる:確認すべき書類と優先順序

仕組みはわかった。

では自分の物件の帳簿価額は、どこで確認すればいいか。

相続した物件の場合、被相続人が管理していた書類が手がかりになります。

書類の入手先と確認順序を知らないと、見当違いの数値で計算してしまうことがあります。

確定申告書・固定資産台帳から帳簿価額を調べる

まず確認したいのは、被相続人が毎年提出していた確定申告書です。

優先順位が高い順に確認します。

  • 被相続人の直近の確定申告書(青色申告決算書・収支内訳書):「減価償却費の計算」欄の「期末帳簿価額」が帳簿価額です
  • 固定資産台帳:取得価額・帳簿価額が一覧で確認できます
  • 売買契約書・建築工事請負契約書:建物取得費の元の金額はわかりますが、帳簿価額には別途計算が必要です

書類が確認できれば、概算5%より正確な帳簿価額を使える可能性があります。

書類がない場合:5%ルールと帳簿価額で比較する

書類が見当たらず帳簿価額が確認できない場合、「売却価格の5%」を取得費とみなせるルールがあります。

「取得費が不明または実際の取得費が売却価格の5%以下の場合、売却価格×5%を取得費として使える」という制度です。

帳簿価額が確認できる場合は、どちらが高いかを比べて有利な方を選択できます。

比較項目 金額(売却価格5,000万円の場合)
概算取得費(5%ルール) 250万円
帳簿価額(木造アパート例:土地1,000万円+建物344万円) 1,344万円

帳簿価額が高い場合は帳簿価額を使う方が課税所得が少なくなります。

「書類がないからどうせ5%」と諦める前に、まず帳簿価額の確認を試みることをおすすめします。

逆に概算5%が有利になるケースもあります。

建物の帳簿価額がほぼ残らないほど償却が進んでいて、かつ土地の取得費も極めて低い場合です。どちらが有利かは両方を試算することで判断できます。

書類確認や取得費の算定が難しい場合は、T-ESTATEにご相談ください。

いくらになる?2つのケースで税額と手取りを計算する

相続した収益物件には「空き家特例」「マイホーム特例」は使えません

生前に賃貸に出していた物件は、「貸付けの用に供されていた」ため、空き家3,000万円控除の適用対象外です。

マイホームの3,000万円特別控除も居住用財産でないため使えません。

収益物件で実質的に使える節税手段は、取得費加算の特例のみです。

特例の適用条件・期限については、この記事の冒頭でご紹介した記事をご確認ください。

ケース1(特例なし):帳簿価額1,344万円で計算した場合の税額と手取り

前述の木造アパートの計算例(帳簿価額1,344万円)をもとに、売却時の税額と手取りを試算します。

今回の計算では取得費加算特例は使わない前提です。

項目 設定
売却価格 5,000万円
取得費(土地1,000万円+建物帳簿344万円) 1,344万円
譲渡費用(仲介手数料相当) 200万円
所有期間 25年(長期)
取得費加算特例 なし

この条件で税額を計算します。

  • STEP1. 課税譲渡所得の計算:5,000万円 −(1,344万円 + 200万円)= 3,456万円
  • STEP2. 税額の計算(長期税率20.315%):3,456万円 × 20.315% ≒ 702万円

比較として、減価償却を考慮せず建物取得費を当初の2,000万円のまま計算した場合は、課税譲渡所得が1,800万円となり税額は約366万円です。

減価償却後の帳簿価額で計算しないと、税額を約336万円少なく見積もることになります。

税額だけでなく、売却に伴う諸費用も差し引いた手取りも確認しておきます。

売却価格5,000万円から以下を差し引くと、手取りの概算が出ます。

差引項目 金額(目安)
税額 702万円
仲介手数料(5,000万円×3%+6万円、税別) 156万円
印紙税 3万円
登録免許税(抵当権抹消等、目安) 約8万円
手取り概算 約4,131万円

売却価格5,000万円のうち、手元に残るのは約4,131万円です。

※この計算例は目安です。

ケース2(取得費加算特例あり):按分計算で加算額を求め税額との差を確認する

取得費加算の特例は、相続税を支払った財産を一定期間内に売却した場合に、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。

加算できる金額は「支払った相続税の全額」ではなく、売る不動産の課税価格が相続財産全体に占める割合で按分します。

計算式は次のとおりです。

取得費加算額 = 支払った相続税 × (売る不動産の課税価格 ÷ 相続財産の課税価格合計)

ケース1の条件に加えて、以下を前提に加算額を計算します。

追加設定 設定
支払った相続税 500万円
相続財産の課税価格合計 5,000万円(不動産3,000万円+現金2,000万円)

この条件で按分計算を行い、税額がいくら変わるか確認します。

  • 加算額:500万円 × (3,000万円 ÷ 5,000万円)= 300万円
  • 取得費:1,344万円(ケース1の帳簿価額)+ 300万円 = 1,644万円
  • 課税譲渡所得:5,000万円 −(1,644万円 + 200万円)= 3,156万円
  • 税額(長期20.315%):3,156万円 × 20.315% ≒ 641万円

ケース1(702万円)と比べると、61万円の節税になります。

よくある誤解が「支払った相続税を全額加算できる」というものです。

実際は、売る不動産が相続財産全体に占める割合で按分するため、不動産以外の財産(現金・有価証券等)が多いほど加算額は少なくなります。

この計算を知らずに試算すると、節税効果を大きく見積もりすぎることがあります。

取得費加算の特例には「相続開始から3年10ヶ月以内に売却する」という期限があります。

自分の物件で実際に計算するために確認する3つのこと

ケース1・2は特定の条件を前提にした計算例です。

自分の物件に当てはめると、3つの分岐で数字が変わります。

それぞれの分岐でどちらの値を使うかが決まれば、同じ計算式でシミュレーションできます。

「相続した日」ではなく「被相続人が取得した日」が所有期間の起算日になる

起算日は被相続人が物件を取得した日です。確認手順はシンプルです。

  • 被相続人の取得年を確認する(売買契約書または登記簿謄本で確認)
  • 売却する年の1月1日時点で、取得日から5年を超えているかどうかを確認する
  • 5年超なら長期(20.315%)、5年以下なら短期(39.63%)

ケース1の課税譲渡所得(3,456万円)で比べると、長期税率なら税額702万円、短期税率なら約1,369万円と、倍近い差になります。

あわせて読みたい
相続した不動産を売るときの税金はいくら?賃貸・収益物件は節税が限られる理由と対策

相続した収益物件・事業用不動産を売却すると、譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、不動産を売って得た利益(譲渡所得)にかかる所得税のことです。 税率の目安は利益の約20%(長期保有の場合)ですが、節税できる制度は居住用不動産と大きく異なります。 空き家特例もマイホーム特例も、生前に賃貸に出して

取得費加算特例が使えるか、加算額の計算と3年10ヶ月の期限

適用条件は①相続税を支払っているか、②相続開始から3年10ヶ月以内に売却するか、の2点です。

両方○であれば、ケース2と同じ按分計算で加算額を算出できます。

加算額を求める手順
  1. 相続税の申告書で支払った相続税額を確認する
  2. 同申告書で課税価格の内訳(不動産・現金・有価証券等の金額)を確認する
  3. 按分計算式で加算額を算出する(加算額 = 支払った相続税 × (不動産の課税価格 ÷ 相続財産の課税価格合計))
  4. 取得費に加算して課税譲渡所得を再計算する

相続税を支払っていない、または3年10ヶ月を過ぎている場合は特例を使えないため、ケース1と同じ計算になります。

特例の活用を検討しているなら、早い段階で税理士に相談することが欠かせません。

5年未満なら早期売却と長期待機のどちらが有利かを確認する

被相続人が長年保有していた物件はすでに長期税率の対象のため、この確認は不要です。

2つのパターンを整理すると次のとおりです。

パターン 売却タイミング 取得費加算特例 税率
早期売却 3年10ヶ月以内 あり 短期:39.63%
長期待機 5年超まで待つ なし 長期:20.315%

どちらが手取りで有利かは、「加算できる相続税額による節税」と「税率差による節税額」の大小で決まります。

自分の数字で両パターンを試算したうえで判断することをおすすめします。個別の状況によるため、税理士への確認が確実です。

まとめ:概算が出たら、税理士への確認に進もう

取得費は帳簿価額で計算する、減価償却の速度は構造によって違う、収益物件に使える節税手段は取得費加算の特例のみ。

この記事のポイント
  • 取得費は「購入時の価格」ではなく帳簿価額(減価償却後の金額)で計算する
  • 木造は20年で建物取得費の8割超が償却済みになることがある
  • 収益物件に使える節税手段は取得費加算の特例のみ(相続開始から3年10ヶ月が期限)
  • 特例の加算額は按分計算のため、不動産以外の財産が多いほど少なくなる
  • 所有期間の起算日は「被相続人の取得日」のため、相続直後でも長期になることが多い

自分の物件の帳簿価額・相続税額・所有期間が確認できれば、同じ計算式で税額と手取りの概算を出せます。

書類が揃わない、どの数字を使えばいいかわからないという場合は、まず帳簿価額の確認から始める必要があります。

概算が出たら次のステップは税理士への確認です。

申告書の作成・提出は税理士が担当する領域で、売却翌年の確定申告(翌年2月16日〜3月15日)が申告期限です。

T-ESTATEは、名古屋エリアで収益物件・事業用不動産に特化した専門会社です。全国5,000件超の法人・投資家等の顧客ネットワークと常時接点をもっており、税理士と連携しています。

概算の税額と売却価格の見通しを一緒に整理するところからご相談いただけます。

この記事を書いた人
アバター画像
松下 秀二郎(不動産仲介事業部 営業)

「売りたい」「買いたい」それぞれのゴールを一緒に整理し、名古屋エリアの収益物件・事業用不動産仲介で最適な進め方を提案。物件の特徴と市況、購入検討者や融資の見立てまで踏まえて説明することで、納得感ある取引と早期成約を目指している。全国5,000件超のネットワークを活かし、非公開物件でもスムーズにマッチングする。
[スタッフ情報]

関連記事

  • Unique Network × Judgment × Closing
  • Unique Network × Judgment × Closing

CONTACT

オンライン対応可能|
ご相談・査定はすべて無料です

不動産売買に関するお悩み、まずはお気軽にご相談ください。
名古屋エリアに特化した経験豊富なスタッフが丁寧に対応いたします。
ご相談・査定はすべて無料です。
まずはお気軽にお問い合わせください。